東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)108号 判決
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原告 田中正美
右訴訟代理人 宮地正一
被告 誠功建材工業株式会社
右訴訟代理人弁理士 秋山鳳見外一名
【説明】
原告は、名称を「ナツト」とする登録第九三七三一六号実用新案(登録出願昭和四〇年一〇月一六日、登録昭和四六年八月一二日。以下、「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、本件考案(厚い鋼材等を用い、側面低い彎曲凹部1を設けたナツト2を作り、ナツト2の左右の突出部3,3を引つかかり部とする如くせしめ、彎曲凹部1の面部にねじ孔4を設け、ねじ5と組合わせてなることを特徴とするナツト(別紙図面(一)参照))につき、昭和四七年四月一日被告から登録無効の審判の請求があり、特許庁昭和四七年審判第一九三〇号事件として審理されたところ、昭和四九年五月八日本件考案の登録を無効とする旨の審決があり、その審決謄本は同年五月二七日原告に送達された。
【判旨】
二そこで、原告が請求原因四において主張する本件審決の取消事由の存否につき判断する。
(一) 目的及び構成について
1 原告は、本件考案の要旨とする構成は、ナツト2の左右の突出部3,3が彎曲凹部1の平面部に対し直角に屈曲されているものに限られるべきであると主張するところ、当事者間に争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「ナツト2の左右の突出部3,3を引つかかり部とする如くせしめ」と記載されているのみで、ナツト2の左右の突出部3,3と彎曲凹部1の平面部との屈曲角度を限定した記載はないことが明らかであり、また、<証拠>によれば、本件考案の明細書中、考案の詳細な説明にも、この点につき何らの記載もなく(以上は原告も自認するところである。)、ただ、願書に添付の図面(別紙図面(一))には、ナツト2の左右の突出部3,3が彎曲凹部1の平面部に対しほぼ直角に屈曲されているものが示されていることが認められる。
一般に、考案の詳細な説明の項に記載すべき考案の構成は、当該考案が解決しようとした問題を解決するためどのような手段を講じたかをその作用とともに文言をもつて記載すべく、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならず、当該考案の技術的範囲は、実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めなければならないものであることは、いうまでもない。また、願書に添附されるべき図面は、当該考案の技術内容を正確に表現するためのものであり、実用新案登録を受けようとする者が提出しなければならないものではあるが、たとえば、図面にのみ表現された特定の事項について、それがなければ、当該考案として完成しないとか、当該考案が解決しようとした問題点を解決することにはならないとか、明細書に記載された特有の作用効果を収めることができないとかの特段の事情が存する場合には、補正によりこれを考案構成の要件とする余地を生ずることもあろうが、一般に、図面に示された事項が、すべて実用新案登録請求の範囲の記載いかんにかかわらず、考案の要旨を限界づけるものと解することはできない。そして、本件考案については、前記のとおり、ナツト2の左右の突出部3,3が彎曲凹部1の平面部に対し直角に屈曲されることは、実用新案登録請求の範囲に記載されず、単に、図面に示されているのみであるから、この図面に示された構成は、本件考案の一実施例を示しているにすぎないものと解するほかはない。したがつて、本件考案は、ナツト2の左右の突出部3,3が彎曲凹部1の平面部に対し直角に屈曲されているものだけに限定されず、屈曲角度が直角でない突出部のものもその要旨とする構成に含まれるものと解するのが相当である。
なお、原告は、本件考案のナツト2はその左右の突出部3,3の先端面で被固着材を押圧して緊締着するものであるから、当然に、左右の突出部3,3は直角に屈曲されていなければならない旨主張するが、右のように突出部の先端面で押圧して緊締着する場合、厚い鋼材等を用いたナツトである以上、常に必ずしも左右の突出部が彎曲凹部の平面部に対し直角に屈曲されていなければ原告主張のような緊締着ができないものではないことは、見やすい事理であるから、原告の右主張は採用の限りではない。
<証拠>によれば、引用例のものにおける頂部座板3の左右両側縁1,1は、中央平面部に対し直角ではなく、やや斜め外側に屈曲して突出していることが認められるが、本件考案の要旨において、そのナツト2の左右の突出部3,3が彎曲凹部1の平面部に対し直角に屈曲されているものに限定されない以上、両者の間には、原告主張のような構成上の差異があるとすることはできない。
2 原告は、本件考案においては、ナツト2の左右の突出部3,3の先端面が被固着材を押圧するのに対し、引用例では頂部座板3の左右両側縁1,1の先端面は被固着材を押圧していないと主張する。
前掲<証拠>によれば、本件考案の明細書中、考案の詳細な説明には、「使用する場合、突出部3,3の突先部を被着材面部に押し当てて、ねじ孔4に彎曲凹部1の方からねじ5をねじ込んで締着すると、突出部3,3があることによつて、被着材は緊密に締止されて堅固な一体品とされる」と記載されており、また、「第3図に示すように、部材7と部材6を締着し、一体とする場合とすると、ナツト2の突出部3を部材6に係止する如くして押し当て、部材7とをねじ5でねじ締着すると、堅固に一体とできる。すなわち、突出部3,3が部材6又は部材7の端縁部を引つかける如くすることもできるので、緊締着して一体とすることにより堅固にできる」とも記載され、図面(第3図)には、左右の突出部がその先端面で部材6と部材7とを押圧し、右の突出部3の内側面と釣針形に曲つた部材6の端縁とが係合したものが示されていることが認められる。しかしながら、本件考案は、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり、厚い鋼材等を用い、側面低い彎曲凹部1を設け、左右の突出部3,3を引つかかり部とする如くせしめ、彎曲凹部1の面部にねじ孔4を設けたナツト2とねじ5とを組合わせてなることを要旨とする固着用金具の考案であり、その使用態様ないし用途については明細書のどこにもこれを限定する趣旨の記載はなく、考案の詳細な説明及び図面に示されている右認定の使用態様は、実施の一例として示されたものにすぎない。
ところで、前掲<証拠>によれば、引用例記載のカーテンレール端止具は、左右両側縁1,1を斜下方に突出させ中央平面部にねじ孔2を穿つた頂部座板3とねじ杆8とが、本体7をカーテンレール9に固着するものであつて、頂部座板3の中央平面部と左右両側縁1,1の内側面とがカーテンレール9の底面中央部10(縦溝11の左右部)を押圧していること(別紙図面(二)第2図参照)が認められる。そして、本件考案の固着用金具は、前記のとおり、ナツト2の左右の突出部3,3の先端面により被固着材を押圧する使用態様のみに限定されているわけではなく、実用新案登録請求の範囲に特定されているその構成からみて、引用例において頂部座板3の中央平面部と左右両側縁1,1とがカーテンレール9を押圧しているのと同様に、適宜被固着材の種類、形状等に応じて、ナツト2の彎曲凹部1の平面部と左右の突出部3,3の内側面とが被固着材を押圧する態様でも使用しうるものであることが明らかであり、これが要旨外であるとはいえない本件考案については、本件考案と引用例のものとの間に、原告が主張するような差異があるということはできない。
3 本件考案がナツト2及びねじ5の二つの構成要素を組合わせてなる固着用金具に関するものであることは、その実用新案登録請求の範囲から明らかであるところ、前掲<証拠>によれば、本件考案の明細書中、考案の詳細な説明には、「この考案は緊締着すると容易にかつ確固に緊締着できるので、組立式の戸材その他の成品の操作が容易である。」と記載されていることが認められるから、本件考案の固着用金具が戸材その他の物の組立てに用いうるものであることも明らかである。しかしながら、前記のとおり、本件考案のナツトは、その使用態様ないし用途については何ら限定されておらず、本件考案の要旨とする構成に照らすと、そのナツト2とねじ5とは、原告の主張するようにスチール製雨戸等の戸材を組立てる用途にのみ使用できるというものではなく、広く固着用金具として他にも種々の用途に使用されうるものと認めざるをえない。
一方、前掲<証拠>によれば、引用例は、名称を「カーテンレール端止具」とする考案に係るものであり、その考案自体は、頂部座板3、本体7及びねじ杆8の三つを構成要素としてはいるものの、その頂部座板3とねじ杆8とは、これによつて本体7とカーテンレール9とを固着するものであるから、固着用金具である(この点は原告も認めている。)ことが認められる。そして、その頂部座板3とねじ杆8とは、本体7とカーテンレール9とを固着するためだけではなく、本件考案のナツト2とねじ5が部材6と部材7とを固着するのと同様に、広く固着用金具としてカーテンレール端止具用ばかりでなく他の用途にも使用しうることは、その構成自体から容易に理解しうるところであり、一方、本件考案におけるナツト2とねじ5は、引用例の頂部座板3とねじ杆8が本体7とカーテンレール9とを固着するのと同様の用途にも供しうることは、その構成上明らかである。しかも、本件考案のナツト2と引用例の頂部座板3との間には構成上の差異があるとしえないことも、前述のとおりである。
したがつて、本件審決が、引用例における頂部座板3とねじ杆8の二つに着目してこれらを組合わせた構成と本件考案の構成とを対比したことに誤りはなく、固着用金具たる両者の間には、目的及び構成上の差異があるということはできない。
(二) 作用効果について
本件考案と引用例のものとは、前(一)において判断したとおり、目的及び構成において差異がなく、同一に帰するものである以上、ひいて、作用効果においても差異を生ずるはずのものではないといわざるをえない。
原告が本件考案の特段の作用効果して主張する点は、いずれも、本件考案の一実施例についての具体的な構成、使用態様を本件考案の要旨であるとすることによるものであつて、その誤りであることはすでに説示したとおりであるから、原告の主張は失当である。
(三) 以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、本件考案をもつて引用例のものと同一の考案であるとした本件審決の判断に誤りはない。
(荒木秀一 橋本攻 永井紀昭)